とても綺麗な絵を描く人がいた。

似ているだけでなく、どこかその人独特の雰囲気を持っていて。
上手い人は他にも何人かいたけれど、彼女はそんな人達ともどこか一線を画していた。

 

ある日、図画の授業で『葡萄を描こう』というのがあった。

学校の葡萄棚の下で、ただ僕はその人の画用紙だけを見ていた。

 

すると、彼女はすらすらと葡萄――――それの、“葉”を描き始めたのだ。

繊細な陰影、力強い葉脈、意外なほど複雑なその形を、ためらいもせず写してゆく。

他の人間が必死になってまだ小さくて、貧相な実を描いているのに、彼女だけはそんな事知らぬとばかりに、ただ、葉だけを描き続けていた。

思わず


「どうして君は葉っぱしか描かないの?」


と訊いた僕に、彼女は淡い笑みを浮かべ―――――・・・


 

 

「だって、実は面倒じゃない。」

「・・・・・・」

 

 

後日、彼女の絵は金賞をとった。

 

 

050:葡萄の葉